紅葉散



 放課後・・いつものノートを開いてやっと思い出して、僕は顔を上げた。
 いつもどおり窓の外を見ているあなたの名前を呼ぼうと息を吸い込むとき、
 あなたが振り向く。
 その動きにさらりと揺れた髪が、澄んだ鈴の音をたてるような錯覚を、いつも覚える。
 「なに?」
 短いその言葉に、僕はなんとなく嬉しくなる。
 「僕が昴さんを呼ぼうと思ったの、わかったんですか?」
 さっきのタイミングは、そうとしか思えなかったから。
 「・・うん、なんとなく」
 ちょっと思い出すように上を見ながら、昴さんは答えた。
 まるでそれって、以心伝心、みたいだ。
 思わず頬が緩むのを止められない。
 そんな僕を見て、昴さんが少し眉を寄せる。
 「・・・・・で、何か用があって僕を呼ぼうとしたんじゃないのか?」
 「あ! そうでした・・・実は・・」
 ノートを手に席を立って、窓辺の昴さんの前へ。
 見えないように少しだけ開いたノートのページの間から、
 挟んであったそれを取り出して、僕は差し出した。
 「・・・・」
 昴さんは少し驚いたように、目の前のそれを見つめている。
 「昴さんに・・あげようと思って」
 秋の冷たさの混じる日差しの中で、あなたが少し照れたように笑った。
 「・・・紅葉か」
 真っ赤に色づいた葉を、昴さんの手が、僕の手からそっと受け取った。
 「・・きれいだね」
 「はい、通学路で見かけて・・とっても綺麗だったので・・」
 「・・・・・僕のために・・?」
 俯いて目をそらしたあなたが、小さくたずねて、
 僕はそんなあなたの言葉に酔うような、そんな気がした。
 「・・はい」
 あなたのために何かをしたという事実だけで、
 それをあなたが知ってくれるだけで、
 とても幸せな気持になれる。
 あなたに会いに道を歩いて、あなたを想い景色を眺め、
 あなたのために生きれたなら・・・それは、一番素敵な生き方なんじゃないだろうか。
 そんなことをどこかで思った。
 「・・・・ありがとう」
 吐息に乗せるようにそっと、あなたが言った言葉。
 胸の奥で、小さな金の鈴を水晶で打ったように、澄んで甘い音が鳴り響く。
 指先まで満ちる桜色の流れに、僕は思わずあなたの肩を抱こうとしたらしい。
 それに気付いたのは、あなたが僕の手をすり抜けて隣の窓の前に立っているのを見たとき。
 「・・あれっ」
 「こんなことをしている場合じゃないだろう、大河。まだ今日は一文字もそのノートに書いてないんだからね」
 ふふっ、と、笑うあなたの口元には僕があげた、あの赤い紅葉。
 いつもあなたの口元を隠している扇子と違って小さいから、微笑む唇を隠しきれていない。
 昴さんはいつもこの手をすり抜けてしまう、風に舞う紅葉みたいな人だけど、
 その微笑を・・僕は知っているから、つかまえられないくらいで僕は不安になったりはしない。
 「そんなんじゃ僕を追い抜かせないぞ」
 「・・はい、頑張ります!」
 「うん、それでいい」
 言ってあなたは紅葉を指に遊ばせて、窓際の机に腰掛ける。
 僕は席に戻ってもう一度ノートを開く。


 一問、問題を解くごとに、ちらりとあなたを横目で見れば、
 その口元でくるくると、真っ赤な葉が踊っている。
 秋の空を眺めるあなたの、柔らかな笑みを微かに浮かべた口元で。
 その指が弄ぶ鮮やかな赤。
 あなたの白い肌、黒い髪に、浮き出るように、その赤が踊っていて、
 なんて綺麗なんだろう。
 思わず見とれそうになってそのたびに頭を振った。


 「大河・・」
 ぽつりとあなたが僕の名を呼んで、
 「はい?」
 あなたはまだ、流れる雲を見上げたままで、その手の中には紅葉がくるくる。
 いつだって僕より大人びている昴さんが、その踊る赤のせいで、
 まるで無邪気な子供みたいに見えて、僕は思わず笑む。
 あなたの一つ仕草だけで、僕の心は、勉強から途端に、あなたのことでいっぱいになってしまう。
 「・・紅葉狩りに行こうか」
 え? と、聞き返しそうになったのを押さえて、僕はその言葉を胸で反芻する。
 だって、昴さんから一緒に出かける誘いをもらったのは、初めてだったから。
 嬉しい気持がきらきら光って、胸にこみ上げてきて、
 僕は思わず席を立って返事をした。
 「はいっ! 行きましょうっ!!」
 肩越しに昴さんが振り向いて、眉を寄せた。
 「今じゃない、今度、開いた日にだ」
 「えっ・・・ぅ・・そ、そうですよね」
 もう暗くなるばかりの時間だし、当たり前といえば当たり前だったけれど、
 昴さんと紅葉狩りなんて・・明日までだって待ちきれない。
 「まったく・・君は気が早すぎるな・・」
 腰掛けていた机から降りて、昴さんが鞄を手に取った。
 「あ、もう帰るんですか?」
 いつもより早い時間だったから、名残惜しくて呼び止めた。
 「うん」
 それだけ言って、昴さんがドアの前で、振り返る。
 僕より早く帰る昴さん、その場所で別れの挨拶が・・
 僕にとっての一日の最後の楽しみなんだ。
 僕とあなたの明日を約束する言葉だけで、視線だけで、
 夜は短くなって、朝は早く来て、輝くから・・。
 「プレゼント、ありがとう。・・また明日」
 言ってあなたは、まだ手にしていた赤い紅葉に唇を寄せた。
 それを僕のほうへ向けて・・優雅に微笑んだ。
 それって、投げキッス、というやつでしょうか・・・。
 かあーっと頬の内側に熱が広がっていく感じ。
 あなたはやっぱり口元にその赤い葉を寄せたまま笑った。
 「昴は思った・・今の君の顔は、紅葉を散らす、という表現にぴったりだ・・と」
 「も・・もみじを?」
 「赤面する、という意味だよ」
 真っ赤になる僕を見られていたと思うと、恥ずかしくて思わず頬を押さえる。
 「勉強になったね、大河」
 そんな捨て台詞で、あなたが教室のドアを閉めた。
 「ぅ〜〜・・!」
 広げたノートの上に突っ伏して、まだ思い浮かんでしまう、紅葉に寄せたあなたの唇・・


 秋、木々は色づき、赤、黄、橙・・
 二人で歩く静かな山道を思い浮かべる。
 紅葉狩り・・
 あなたのために綺麗な葉を見つけよう。
 早く、早く、その日が来ればいいなあ。
 想像の中にも、色とりどりの木の葉の中で、僕に向けてくれるあなたの微笑が優しく鮮やかで、
 ちょうど落ち葉のあの甘い香りのように・・・綺麗。
 紅葉を散らしたままの頬で僕は呟く。

 「秋はあなたの季節です」



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【[カメアナ]のカメオカさんより】
わひゃぁっ!素敵SSを書かれるカメオカさんから
禁断の放課後パラレルの二人の紅葉話なんて素敵な作品を頂いちゃいました!!
押し付けた紅葉昴さんのお返しに頂いたのですが海老で鯛を釣った気分ですv
言葉多く交わさなくても通じ合っている二人・・・v
貰った紅葉をくるくる手元で回す可愛らしいしぐさな昴さんvvv
そしてそれで投げキッスまでしてくれちゃうなんて・・・
新次郎じゃなくとも赤面して喜んじゃいます!!!
あぁもう紅葉良い!!新昴最高!!
どうも有り難うございましたーーっ!!

・・・ちなみに背景の紅葉写真は先日京都嵐山で撮ってきた紅葉写真です。


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